ヴィンターシュ

2026/05/30 09:39

いつも当店を訪れていただき、ありがとうございます。買い付けの旅では食器や小物をメインに探していますが、市場や古いヴィンテージショップの隅っこで、どうしても素通りできないものがあります。

それは、ソビエト時代の「生地」たちです。

 

現地の蚤の市を歩いていると、古いトランクの中に無造作に押し込まれた布の束という光景によく出会います。

ソビエト軍の制服に使われるようなガシッとした綿やウール、労働者のためのタフな綿、そしてそれらとは対照的な可憐な花柄の生地などが並んでいます。

中には、当時の「茶色くてくしゃくしゃの紙タグ」がそのまま残っているものもあります。何十年も前の値札や製品表示がついたままの布を手に取ると、時間がそこだけ止まっていたような、不思議な感覚になります。


最近の現地では、古いアパートを売却する際、家具や持ち物をそのまま引き取ってもらうケースもあるそうです。そうしてクローゼットの奥で静かに眠っていた布たちが、市場に少しずつ顔を出しているのかもしれません。

 

かつてのソビエトは慢性的な物不足で、服も例外ではありませんでした。当時の女性たちは雑誌の付録の型紙を使って、自分や家族の服を手作りしたりしていました。

「いつか素敵な一着を」
「いつか自分に似合うワンピースを」

そんな風に、いつ来るとも分からない「いつか」のために、彼女たちが大切にストックしていた布たち。物がない時代だからこそ、その一枚にかける想いは今の私たちの想像以上に強かったはずです。


そんな背景を知ってしまうと、この愛おしい布たちをただ眺めているだけではもったいない気がして、今回、花柄のコットンやネル生地を中心に、日常で使いやすい「小さな小物」に仕立てることにしました。

そのままの形では使い道が難しかったヴィンテージの生地も、ポーチや巾着といった「今の暮らしに馴染む形」に変えることで、また新しく誰かの日常を彩ってくれるのではないか。そんな風に考えています。

かつてソビエトの女性たちが大切に抱えていた布の記憶。形を変えて、今度は日本の皆さまの元へお届けします。