2025/05/30 21:11
皆さま、お久しぶりです。気づけば、前回のブログからずいぶん時間が経ってしまいました。
さて今回は、ちょっとユニークで不思議な、でもどこか懐かしい、ヴィンテージの「水飲み器」についてご紹介したいと思います。実はこれ、ただの器ではないのです。ウクライナのある街と深いつながりを持つ、特別な陶器だったのです。
https://cheraviecu.official.ec/items/93804938
ヴィンテージ 水飲み器 ボリスラフ陶器工場 旧ソ連 0430

ある日、蚤の市をぶらぶら歩いていると、目を引く陶器が目に留まりました。鮮やかなオレンジ色の花、建物のイラスト、そして「Трускавец(トルスカヴェツ)」というキリル文字、私はてっきり一輪挿しかと思い、「かわいいな」と手に取りたくなりました。
「見てもいいですか?」と尋ねると、売っていたおばあちゃんがにっこりして、「これ、とってもいいわよ。ちゃんと使えるの」と言いながら、器の取っ手を口元に持っていき、飲む真似をしてくれたのです。
「えっ、飲むの? 一輪挿しじゃないの?」
驚いた私が尋ねると、おばあちゃんは「温泉で鉱泉を飲むときに使うのよ」とさらりと答えました。
この器は、鉱泉水を飲むための“専用器”だったのです。まさかそんな用途があるとは思わず、興味津々でその場で購入しました。
器を眺めていると、近くにいた別のおばさんが話しかけてきました(旧ソ連圏ではこうした交流がよくあるのです)。
「懐かしいわ~。私もサナトリウムで、これで鉱泉水を飲んでたのよ。とても効いたの。今ではもうあまり行かなくなったけどね」。
帰国後、この器について調べてみました。「トルスカヴェツ」とは、ウクライナ西部、カルパティア山脈の麓にある美しい保養地。ポーランドとの国境にも近く、ミネラルウォーター「ナフトゥシャ(Нафтуся)」で知られる場所でした。
この街では、鉱泉水を専用の陶器で飲むのが日常の風景。私が手に入れた器も、まさにこの地で使われていたものでした。器に描かれていたのは、おそらく保養施設の建物。そして同じデザインの器が、現地の「ナフトゥシャ・ミネラルウォーター博物館」にも所蔵されているということが分かりました。
さらに調べを進めると、この器はウクライナの「ボリスラフ陶器工場」で、1974年から1984年にかけて製造されたものだと判明。
ここでふと、あるソビエト映画を思い出しました。
1985年の『愛と鳩』――この映画の中に保養地を訪れるシーンがあったような気がして、もしかしてあの器も登場するのでは?と期待しながらYouTubeで再視聴してみました。
残念ながら鉱泉を飲む場面こそ出てきませんでしたが、コーカサス地方の保養地のシーンがあり、当時の雰囲気をしっかりと味わうことができました。
興味のある方は、ぜひYouTubeで『愛と鳩』を検索してみてください。ソ連時代のユーモアと人情があふれる、心温まる作品です。
話が少し脱線してしまいましたが、この一つの小さな陶器との出会いが、私の世界をぐっと広げてくれました。何気ない器の中に、歴史と文化、そして人々の記憶が詰まっていたのです。
次は、どんな“物語のあるモノ”と出会えるでしょうか――。